第10回 所有と賃貸
1970年代、海外から「うさぎ小屋」と呼ばれた日本の住宅も、この30年間で着実に改善された。
住宅・土地統計調査によれば、1968年、住宅全体の一戸あたりの住宅床面積は73.86㎡、持家で97.42㎡であった(表3)。2003年の同調査では、同様に一戸あたりの住宅床面積は94.85㎡、持家で123.93㎡に伸びている。
(表4)は、各国の一戸あたりの住宅床面積を比較したデータである。それぞれの国で住宅床面積についての考え方に違いがあり、一概に大小を比較できないといわれているが、持家に関してみれば、日本の水準はヨーロッパのそれにかなり近づいてきたといって差しつかえないであろう。
ところが、借家を見ると、欧米諸国の水準には及ばない。特に民営借家は44.31㎡であり、持家(123.93㎡)の約1/3の広さである。
賃貸住宅のストックの状況は、40㎡以下が48.4%を占め、60㎡以上が19.0%に過ぎない、という報告もある。(注1)。
着工新設住宅の一戸当たり床面積においても、貸家は46.8㎡(注2)である。
住宅の水準は、国際的にも高い水準に達してきたが、民営借家の水準は広さという点でみると、30年前とほとんど変っていない。
ということは、今後、賃貸住宅の改善はあまり期待できないということであろうか。
時代を追って眺めてみると、借家事情は決して良好とはいえないまでも、江戸時代の町家、明治・大正・昭和を通じて都市の住まいのひとつの(借家・貸家の)文化が、戦後の急激な都市の膨張の中で見失われてしまったようにも思われる。
地方から大都市に大量の人口が移動してくる。その多くは、都市の生活様式を知らされる環境にない。地方都市、農村社会の意識を、そのまま持続、植え付ける。
それが、借家=仮住まい、持家=永住という住まいに対する考え方を支配してきたともいえよう。
この農村社会的意識に根ざした都市の生活様式が、今、本来の都市生活の姿、つまりストックにこだわらない生活の姿に変わりつつあるように見える。
戦後の経済成長を経て、都市生活者の世帯は核家族化が進んだ。この核家族化した都市居住者の中に、「地縁」や「終の棲家」にこだわらない「種族」が育ってきたならばどうなるであろうか。
実際、都心回帰をはかる世帯層をみると、住宅は利用するものとして、所有にこだわることなく、住まいを求める傾向が見てとれる。
ひとつは、高齢者世帯の場合である。子育てが終わった世代の夫婦が戸建の住宅を売却したり、貸家にする。あるいは子供に譲る。
そして、自らは都心に転居するという例である。
都心に多く立地する劇場、美術館などの文化施設、病院などの医療・介護福祉施設、商業施設や移動のターミナルなどの多様な利便施設を求める。
生活を楽しむためである。財産を残さないということも思慮に入れているとも言う。
もうひとつは、ビジネスライフに追われる世帯である。国際間、地域間の移動の著しいビジネスライフのなかで、移動の拠点と生活、ビジネスの利便性にたけた立地に住まいを構える。
住宅は移動の拠点として、利用する場として扱われるようになっている。
さらに、都心には利用する住まい、郊外や地方には所有する住居という複数の住居を住み分けるライフスタイル(マルチハビテーション)も視野にいれている。
江戸時代風に喩えれば、「東京藩邸」というところか。
また、若年層では、「ディンクス」と呼ばれる世帯がある。子育ては後回しにして、二人の生活を楽しむという世帯である。
住宅は生活するうえで利用するものであり、所有にこだわらないという考えが醸成されつつあるように思われる。
住宅を購入する場合も、賃貸する場合も、住宅支出があまり変わらないとすれば、賃貸住宅の需要が増加すると見てもおかしくはない。
水準の高い、良質の賃貸住宅の需要は十分にあると見てよいであろう。
約700万戸の住宅が余っていることは前回述べた。これらの住宅を含め、賃貸住宅市場が機能することで、多様なライフスタイルに対応した住生活を可能にするであろう。
同時に、賃貸住宅の供給、賃貸住宅市場の活性化が賃貸住宅の質を向上させるものと考えられる。
住宅に限らず宅地についても同じようなことが言える。1991年借地借家法が改正され、新たに定期借地権が創設された。土地の利用に流動化をもたらすであろうと期待されたが、効果は十分でない。
法制度の整備以前に、かつて「見失ってしまった」住宅や宅地の「貸す」ことと「借りる」ことの市場づくり、都市生活の仕組みづくりが今求められているということであろう。
所有する住宅でのライフスタイル、借家する住宅でのライフスタイル、それぞれ実現できるライフスタイルが異なっている。生活様式に合わせてそれぞれの住まいを選択する。
多様な選択肢をもつ住まいのパターンは、活力を生む都市生活の多様性を支えるうえで必需であろう。
(注1)社団法人住宅生産連合会「平成16年度 住宅土地関連税制改正要望 関連データ」
(注2)国土交通省「平成17年度 住宅着工統計」
2006年11月30日更新

1948年生。83年4月株式会社ミサワホーム総合研究所入社。
(株)ミサワホーム総合研究所、(財)住宅都市工学研究所で
「まちづくり・住まいづくり」の調査・研究開発を行う。
同時に、ミサワホーム株式会社、ミサワシティ(株)等関連会社と
併任・兼務し、都市開発、区画整理、再開発等の事業プロジェクトを
推進、事業プロジェクト、まちづくり、医療・介護施設等の企画を行う。
現在、株式会社ミサワホーム総合研究所 理事。
東京大学都市工学科大学院博士課程修了。工学博士。一級建築士。
【趣味】 自然観照、散歩、読書。

