第3回 宅地と防犯
警視庁の調べによれば、東京都内の「侵入窃盗」件数は、この5年間で半減している。「空き巣」に関しても同様で、平成14年に21,123件あった認知件数が、平成18年には10,347件と半減している(表1)。
ところが、同じ警視庁が作成している犯罪発生マップの「住居対象侵入盗」のマップ(注1)を見ると、発生の状況は地域的に偏っている。特に、山手線の外で西側の区部(豊島区、杉並区、中野区、世田谷区、目黒区など)の住宅地で高い発生密度を示している。
また、「空き巣ねらい」の発生分布(平成12年―平成14年)を、実際に調査した文献(注2)から、わずか100m×50m程度の空間的広がりのなかで、3年間に13件もの空き巣ねらいが発生していた地域があることが読み取れた。
「空き巣ねらい」の発生に地域的な偏りがみられることを鑑みると、空き巣にねらわれやすい住まいや宅地のつくりがあるものと考えられる。
「空き巣狙い」の発生度の高い住宅地について共通点を探ってみよう。
ひとつは、建物の用途が混在した地域であること、あるいは混在した地域に隣接していることが挙げられる。(領域性)
また、住宅としての機能は同じでも、戸建専用住宅と共同住宅が混在している地域でも発生度が高い。
同時に、この地域では世代交代がおこっており、住宅地の性格も変わりつつあるといってよい。従前のコミュニティが変質しつつあるといってもよいであろう。
地域を構成する住民の匿名性が高まってきていると言うことであろう。
また、人通りが少ないにもかかわらず、不特定多数の人が通るような性格の道路(たとえば、幅員が狭いのに抜け道になっている。遊歩道である。など)に隣接している宅地なども発生度の高い例である。
第2に、道路パターンが複雑であり、道路幅が狭い。宅地が道路より数m高くなっているなど、「宅地のつくり」にかかわる場合である。(自然監視性)
「地域内での見通しが悪く、死角が生じやすい」ことがそれである。
このとき、往々にして、宅地の形が不整型で狭小になる。さらに、隣接の住宅との棟間隔が狭くなり、宅地の外部から死角ができやすくなる。
第3に、宅地内の利用にかかわることがらである。(接近性)
建物の形が複雑である。敷地内に車庫や、物置があり、宅地の外から見通しが悪く死角ができる。このような場合に、外部からの侵入の助けになっている。
ブロック塀なども侵入者を遮る役割を果たす場合もあるが、「つくり」によっては侵入者の助けになるような効果をもたらすこともある。
また、庭木や植栽の手入れを怠っていることが、侵入者の絶好の目隠しとなることもある。
防犯環境設計の観点から、これらを「領域性の確保」、「自然監視性の確保」、「接近の制御」と呼んでいる。これらを確保し、かつ、住宅への侵入に対抗する手だてとして錠・ガラス等を強化(「対象物の強化」)することを推奨している(注3)。
平成19年上期(1月-6月)の東京都内において、一戸建住宅の空き巣の侵入手段を見ると、空き巣1,449件中68.2%がガラス破りであり、錠破りは1.5%である。(注1)
「熟練した技術」を要する手だてより、荒っぽいが手っ取り早い方法が選ばれているということだろうか。
監視性の高い「宅地づくり」、「住まいづくり」、「コミュニティづくり」に心がけることでかなりの侵入を防げるであろう。
住まう者の嗜好に差があり、例外もある。一概に「これだ」と決め付けるわけにはいかないが、比較的規模の小さい宅地が配列された住宅地では、開放的な宅地利用で、植栽も単純で手入れを怠らないように住まうという心がけが必要と思われる。
また、住宅のつくりも、単純なプランで、外壁に凹凸の少ない形状が望ましい。したがって、宅地の形状も単純な矩形で、高低差が少ないものが望まれる。
ところで、「都心居住」(第一部第4回)の稿で、地域に活力を与えるには多様な機能の集積と活動が必要であるという趣旨のことを記述した。換言すれば、「用途の混在」ということである。
また、利便性の高い地域でもあるとも述べた。
共同住宅があり、戸建住宅がある。さらに、コンビニエンス・ストアや医療施設などの生活をささえる利便施設がある。このような地域は、多様な世代が生活し、多様な形態の家族が住まい、活動する地域社会がつくられている。
しかし、先に述べたように、建物の用途の混在する地域では「空き巣ねらい」の発生度が高い。
居住する地域住民のほかに他地域から流入する生活者もあり、地域住民を含めて、生活者の匿名性を高めるのであろう。
その結果、他者にたいしての関心が薄れる。
何よりも重要なのが、住宅地のコミュニティのあり方である。近隣同士がお互いに親しみを持って住まうことが、地域の防犯には欠かせないことである。
特に、高齢化時代にあっては、地域の利便性は、高齢者の生活に欠かせないものである。
他者を排除する「建物用途の純化」が目指す方向ではないであろう。
用途、機能の混在する地域のなかで、「宅地のつくり」を修景する方策をたてるとともに、地域の「まちづくり」を如何にするかにかかっている。
それは、地域によって方策が違っているのであろう。
結論は、常識的なことである。しかし、基本は、防犯という観点を含め、それぞれの地域コミュニティを活性化させる「エリアマネッジメント」が問われている、ということであろう。
(注1)警視庁(2006)「犯罪発生マップ」警視庁ホームページ
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/toukei/yokushi/yokushi.htm
※上記をクリックすると、警視庁ホームページの「犯罪発生マップ」をご覧いただけます。
(注2)(財)都市防犯研究センター(2004)「21世紀都市防犯調査研究報告書」JUSRIリポートNo26.
(注3)(財)都市防犯研究センター(2005)「防犯環境設計ハンドブック[住宅編]」 JUSRIリポートNo31.
(注4)写真:ミサワホーム総合研究所 「2006年~2007年まちなみ調査」(Unpublished)
2007年11月30日更新

1948年生。83年4月株式会社ミサワホーム総合研究所入社。
(株)ミサワホーム総合研究所、(財)住宅都市工学研究所で
「まちづくり・住まいづくり」の調査・研究開発を行う。
同時に、ミサワホーム株式会社、ミサワシティ(株)等関連会社と
併任・兼務し、都市開発、区画整理、再開発等の事業プロジェクトを
推進、事業プロジェクト、まちづくり、医療・介護施設等の企画を行う。
現在、株式会社ミサワホーム総合研究所 理事。
東京大学都市工学科大学院博士課程修了。工学博士。一級建築士。
【趣味】 自然観照、散歩、読書。

